これはヤキトリ。あれはマンション。そこは廊下。それは表札。ここが玄関。ここは大和の部屋。彼は、東大和。16歳の男の子。私は、東来瞳。11か月の雌の猫。昨日までの私は、大和の帰宅で始まって、大和の出発で終わった。でも、本当は知ってた。大和には大和の、大和だけの世界がある。学校。友達。アルバイト。コンビニ。スーパー。電車。椅子。バス。椎名要。たぶん独身。大和のクラスの担任の先生。数学教師。地味。マジメ。感情を表に出さないタイプ。私には、「独身」も、「担任の先生」も、「数学教師」も、「地味」も「マジメ」もチンプンカンプンだったけど——。ひとつわかった。その表情は、私にとっても初めてだ。椎名要。これはリュック。ここは、川!ここは近所の駄菓子屋さん。ここはシャッター商店街。あれは神社。水天宮。あれは銭湯。お風呂屋さん。あれが電車⁉速い!うるさい!友達!坂道。あれは自転車。これが、バス!あれも、あれも、みんな友達?ここは外。ここが、世界。初めて知る、大和の世界。ところで最後にもう一度、ことわっておきます。念のため。東来瞳は猫である。そこんとこよろしく。